column

コラム

シンプルなことではありますが…

今回は、これまでの経験を基にお話してみたいと思います。

私事で恐縮ですが、臨床心理士として働く前は、20年近く、潜水士やスキューバダイビングインストラクターを生業としていました。

日頃、陸上で生活している私たちにとって、水中の世界は、大きな驚きや感動を与えてくれる半面、水中で呼吸することができない私たちが、背負っているタンクの中の空気を頼りに海の中を潜るわけですから、大げさに言えば、絶えず命がけのリスクと背中合わせとも言えます。

ダイビング講習をしていると、「水の中で呼吸ができなくなったらどうしよう?」「何だか息苦しい気がする」などと、いろいろ考え過ぎてしまう慎重な方ほど、ぎこちない動きになってしまったり、時には水中でパニックを起こしてしまったりすることがあります。皮肉な話ですが、かえって、子どものように無邪気に海の中を楽しまれる方のほうがすんなり水の中になじまれていらっしゃったように思います。

水中で不安な気持ちが生じた時、「STOP(止まる)・THINK(考える)・CONTROL(制御)の手順で」と、お伝えしています。不安を感じると呼吸が浅く速くなり、そのような中で泳ぎ続ける(運動する)ことで、さらに呼吸が浅く速くなって、息苦しさが増してしまいます。まずは、止まって体を安定させ深呼吸し、落ち着きを取り戻してから不安解消の方法を考えましょう、というものです。

水中での話ではありますが、これは普段の私たちの生活でも通じるところがあるように思います。仕事やプライベートで心配な事があったとしても、「時間に追われ立ち止まることができない」「今ここで自分が止まったら周りに迷惑がかかってしまう」と、立ち止まれずに不安が増大していく…。シンプルなことではありますが、「立ち止まる」機会(時間)は、意識しないと、なかなか取り難いのではないでしょうか。

師走に入り、気ぜわしい日も多いのではないかと思います。通勤電車の中で、お風呂で、一日の終わりに…、 5分でも手を休めて深呼吸する時間を持ってみることで気持ちにゆとりが生じるかも知れませんね。

令和元年は、皆さまにとってどのような年でしたでしょうか。来年が、さらなる飛躍の年となりますことを心から願っております。

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 岩佐 浩)