column

コラム

AI時代、人間に求められるコミュニケーション

2011年にAI(人工知能)を東京大学に合格させるというプロジェクトが立ち上がっていましたが、残念ながら偏差値65の壁を越えることができませんでした。原因は、AIに基礎読解力(文章の意味を理解するために必要な力)を身につけさせることが困難だったためと言われています。この基礎読解力、近年人間社会でも低下が問題視されつつあります。

相手の意思や意図を読み取るという点では、基礎読解力とコミュニケーションには共通点が多いように思います。会話の中で、相手の言っていることが理解できなかったり、取違えが多くなってしまうと、意思の疎通は難しくなってきます。以心伝心、ツーカーのように、“言葉にしなくても自分の気持ちや考えが伝わったらいいのになぁ”と思いますが、現実にはそれはなかなか難しいことです。

コミュニケーションを取る際、私たちは言葉を使ってお互いの思いや考えを理解したり共有したりしています。また言葉以外の情報(例えば相手の表情や声色、置かれている状況など)や自分が感じたこと、体験したことも、知らず知らずのうちに、相手とコミュニケーションを取る際の判断材料にしています。つまり、人はたくさんの手掛かりをもとにコミュニケーションを取っているため、「伝わっているはず」「そんなことはわかって当然」と一方的なコミュニケーションの取り方になってしまうと、すれ違いが起こりやすくなります。

このようなコミュニケーションのすれ違いを防ぐためには、まず『すれ違っていることに気づける』ことが大切です。伝えたいニュアンスと違う返答が返ってきていると感じたり相手の表情や態度から、伝わっているかどうか不安な気持ちが出てきたりしたときは、ズレが生じているサインかもしれません。そんな時は、『自分の意思や理解を相手に具体的に伝える(例えば「私は~と思う」といったアイ・メッセージの活用)』、そして『相手がどのようなイメージを持っているか確認をする』ことを日頃から心がけることで、よりズレが少ないコミュニケーションにつながります。このような相手の言葉の意味を理解しようとするやり方は、人間独自のもので、AIには今のところ真似できないところです。

ある大学の調査では、10~20年後データ入力などの、マニュアル化しやすい仕事は、AIに取って代わられると言われています。その一方で、カウンセラーや教師等のコミュニケーション能力や理解力、柔軟な判断が求められるような仕事は人間の仕事として残ると言われています。コミュニケーションにおいて、効率的に情報や考えを伝達していく側面が強調される昨今、“相手を理解すること”“相手と共有すること”を普段のやり取りの中から改めて考え直していく時期に来ているのかもしれません。

(御池メンタルサポートセンター 公認心理師 金谷尚佳)