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コラム

これからの育成支援を考える

数年前、「新型うつ病」という人格的未成熟さを伴ったうつ病に注目が集まりました。このタイプのうつ病には服薬治療や環境調整だけでなく人格的成長を促すような支援が必要と考えられますが、実はここ最近になって企業内の相談室で育成支援が必要と思えるような事例と出合う頻度が再び増えているように実感しています。

私は8年ほど前に大学のスクールカウンセラーとして活動していた経験があるのですが、当時、「本来なら高校生の時に達成されるべき課題の達成が大学に任される時代になった」との教職員の嘆きの声を頻繁に耳にしました。その理由として語られることが多かったのが、少子化の影響もあってそれまで手厚い支援を受けてきた学生や保護者が大学でも支援が継続されることを当たり前と認識していること、以前なら合格に到達しない学力水準の学生たちも経営的事情から合格させなければならないことの2点でした。

労働者人口の減少が危機感を伴って認識されている現在、企業は人手不足となる未来を見通しながら人員確保していく必要があります。設備投資に十分なコストをかけられる企業では、労働力を人から機械に置き換えていけばよいのかもしれませんが、そうではない多くの企業では学生確保に躍起になる大学の状況と類似していく、もしくはすでに同様の状況に陥っているように思えてなりません。

では、「具体的にどういった未成熟さを持つ社員が増えると予想するのか」ですが、皆さんは「社会人基礎力」という言葉をご存知でしょうか? 経済産業省が2006年から提唱している概念で、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義され、「基礎学力」「専門知識」をうまく活用していくための力とされています。

その構成要素は「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3つの能力・12の能力要素です。国はこれらの育成を大学など教育機関に委ねていますが、私は今後、企業はこれら基礎的能力の育成支援を新入社員の大半に実施しなければならない時代が訪れると予想しています。育成法の中心は一方通行の講義型よりOJT(業務を通して行う職業教育)を通じた対話型の方が効果的と考えますが、現場の育成担当者には大学の教職員の方々と同じく忍耐力が求められるでしょう。

ここ数年、ラインケア研修に管理職としてのセルフケアやアンガーマネジメントに関する内容を含んでほしいとの依頼が増えていますが、こういった事情とも少なからず関連があるのではと推察しています。

 

(御池メンタルサポートセンター 臨床心理士 水本 正志)