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コラム

「葛藤」の善用

皆さんは生活の中で「葛藤」を感じる場面はありますか?カウンセリングの世界では「葛藤」の取り扱いは大変重要なテーマです。今回は「葛藤」を上手に活用する方法について簡単にお伝えします。

まず、「葛藤」とは「ある事象に対する複数の感情の引っ張り合い」とイメージしてください。「右も左も嫌だ…」「あの人と親しくなりたいけど一緒にいると緊張するし…」といったふうです。葛藤は2つの特徴を持っています。1つ目は、葛藤は強弱あるものの何らかの 不快感を伴って体験されるということです。2つ目は、葛藤状況は現在の自分の問題解決能力が及ぶ範囲をこえているということです。

人は不快感を抱えるのは苦手ですから、多くの人は葛藤状況を解決したくなります。この不快感解消に向けた意欲が原動力となって人はさまざまな行動を起こすわけですが、簡単に解決できる状況なら、そもそも 葛藤なんか抱えませんよね。だから葛藤は中・長期間 持続します。

そしていよいよ不快感が飽和に達すると、人の思考や行動は極端な方向に傾きがちです。「堪忍袋の緒が切れた」と呼ばれる心理状態はその一例でしょう。こういった状態で発現する行動は後で後悔するような結果を招くことが多いため、カウンセラーはこのような状態にある方には「つらい状況というのは理解できますが、ある程度コンディションが整うまで大きな決断は控えましょう」とお勧めするのが一般的です。

さて、ここから本題です。葛藤状況は当人の現状の能力や資源では簡単には解決できない状況であるため、それを乗り越えるためには当人のさらなる能力向上や資源補充が必要です。つまり、葛藤の先には当人の成長可能性が潜んでおり、逆に言うと、葛藤を感じない状況下ではさらなる成長は期待できません。葛藤状況はその不快感によって人を自発的に解決へ、すなわち成長に動機づけますが、極端な思考・行動に傾くと成長機会を失いかねない事態を招くことがあるので注意が必要です。

葛藤による不快飽和の低減法は、抱えている複数の感情を「どれが本当で嘘なのか」「どれが表で裏なのか」といった価値づけをせず、すべて並列に並べる心持ちで眺めることです。社会生活を営む上で大事なのは感 情の善し悪しではなく言動です。言動さえわきまえれば心は無限に自由で良いのです。こういった感情への 関わり方ができれば、葛藤は皆さんをさらなる成長へと導いてくれるでしょう。ご参考になれば幸いです。

(御池メンタルサポートセンター  臨床心理士 水本 正志)